ブレインズ・タイムス第35号


底上げとフエミニズム

 暮れの新宿、カップルで混み合っていた店は、スタ−ジュエリ−や4℃など、日本の人気ブランドジュエリ−店、そしてサクラヤ・ウォッチ館。おねだりギフト3万円の時代にふさわしい店が選ばれているということになる。 90年代、世の中は不況となった。80年代のバブル期にはティファニ−のリングを買ってもらっていた年代層が、今ではスタ−ジュエリ−や4℃のリングを買ってもらっている。言うまでもなくギフトやファッションは時代を映す鏡なのだ。
 8cm胸が大きくなるという(トップ周りでネ)ブラに人気が集まっている。街では高いヒ−ルのぽっくりのような靴が流行っている。高いものではつま先の高さが8cm、踵が20cm近いものまであって、街を行く大きな女性の何割かは、この高いヒ−ルの靴によって身長180cm近くなっているのだ。彼女らは極端に動きが鈍い。背は高いのだが、天に向かう伸びやかな肢体というにはほど遠く、そのギクシャクとした動きを見ていると、何か大きな繰り人形を見ているような気がしてくる。
このブラとぽっくりを同時に語ることが可能な気がする。ひと言で言うなら「底上げ」。本物より良く見せるための詰め物。
 かつて、1960年代後半から70年代にかけて起きたフェミニズムでは、「男性の価値観にならされた女らしさの呪縛からの解放」という意識変革が求められた。当時はファッションもその影響を受け、男性を誘うようなスタイルは敬遠された。ノ−ブラ・ファッションもそのひとつ。モンロ−・スタイルの胸の形は男に媚を売るものとして排除されたのだ。 今、その頃に生まれた女性達が20代から30代。彼女たちのスタイルにはバブル期のような派手さや、過激な見栄や上昇志向は見あたらない。カップルを見れば似た者同士のカップルが多く、男女差がファッションに現れにくくなっているようにも見える。
 しかし、「底上げ」が男性の価値観に根ざしたものである以上、フェミニズムの本質は継承されていないことになってしまう。男性の価値観に因らない<新しい、女性の目に因る価値の創造>というテ−マは魅力的なのだが。

ブランドうんちく講座   AU BON MARCHE オー・ボン・マルシェ

 世界で最初に作られたフランスのデパート。現在のデパートの設備、品揃え、販売促進キャンペーンなど基本的なことは、ほとんどこのオー・ボン・マルシェでアリスティッド・ブシコーが始めた。ブシコーの天才ぶりは、19世紀後半に中産階級の生活レベルが向上すると同時に出生率が低下すると、すかさず子供服売場を作り、周りにおもちゃ売場と文具売場を作ったこと一つからもよくうかがえる。オー・ボン・マルシェの歴史はそのままデパートの発展史ともなるが、「オー・ボン・マルシェ小史」には20世紀初頭の12月の売場は新年の贈り物の大売出しとなる、という記述があり、面白い。つまり、当時のフランスにはクリスマスギフトの習慣はなく、クリスマスセールもされていなかった代わりに、新年に贈り物をする習慣があったことが分かるのだ。

1999年1月1日(平成11年) 発行

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