研究テーマ

塩辛いもの・塩の話

塩辛い食べ物で思い付くものは、白く粉を噴いた様な塩引き鮭の切り身や、名前通りの魚介類の塩辛などが上げられるが、昨今の減塩ブ−ムの中で、鮭の切り身は甘塩、塩辛は減塩といった具合に、あらゆる食べ物は減塩甘塩が主流である。
塩は、世界で一番多く、また一番古くから使われている調味料である。
人間の身体に必要なミネラルの筆頭で、健康体の成人が一日に摂取する量としては12g前後が目安と言われている。
塩分が欠乏すると、食欲不振、倦怠感、精力減退、胃アトニ−などの身体的弊害が生じる。
食べ物を消化する胃酸は塩から生成される。高血圧と塩分の関係についても、特殊な例を除き、ほとんどは直接関与していない事も、最近の臨床デ−タでも明らかにされている。
人間のからだは汗をかいたり、沢山食べたりした時にはそれ相応の塩分補給をしなければならない。
この様に生体にとって重要な塩は特殊な例を除いて直接食する事がない為に調味料に分類されているが、塩の生体への関与を考えると食品に分類しても良いのではないかと考えられる。
あまりヒステリックに減塩と騒ぐのは『程ほどに』という所である。
しかし、日本人の一日の平均運動量は一昔前に比べ、交通機関の充実、仕事のデスクワ−ク化などにより、大幅に減少し、一日の発汗量は確実に少なくなっているのが現状である。
さらに、市販の調理済み惣菜や、チルド食品などには、驚くほど大量の塩が入っている(因みに、粉末コ−ンクリ−ムス−プには食塩相当量として10.4gも含まれている/四訂食品成分表)ので、外食や、市販の調理済み食品を日常的に多く利用している人は、塩分の過剰摂取に対する注意が必要である。

塩はどこで作られるか、という問いに対して、『海から』と答えるのが一番多いのは日本人である。
欧米や東欧の人々は『山から』あるいは、『湖から』と答える人が多い。
実際、世界中で生産消費される塩の・は、山、即ち、岩塩や塩泉、塩湖といった海から遠い内陸部で採取される岩塩である。
しかしながら、岩塩も太古の昔は海であった場所が、地殻の変動などにより海岸線から遠く切り離されてしまい、残された海水は長い年月をかけ、蒸発やろ過などを繰り返し次第に塩分の濃い水となり、最後に水分が蒸発した塩のみが残されて出来たものである。従って、『海から』と答える事は広義的に言って間違いではない。
それでは、海に囲まれた日本では塩の生産は100%自給出来ると思われるが、実は国内消費されている塩の85%はメキシコやオ−ストラリアからの輸入に頼っている。
一昔前の日本では塩の供給は国内で十分賄えたが、日本各地に点在していた塩田は昭和46年の塩田全廃により塩の生産は激減した。

塩の需要が一番多いのは化学工業で全塩量の約80%を占めている。
私たちがス−パ−や食料品店で購入する調味料として使用する量は非常に少なく全体の3%前後でしかない。
その他食品工場などで、加工用として165程度が使用されている。
化学工業で使われる塩の大半は純度99%以上の純粋塩化ナトリウムである。
マグネシウムやカリウム、カルシウムなどのいわゆるニガリ成分を含んだミネラル分が含まれていない塩が塩素やナトリウムなどに分解し、工業用とした時に使い良いからである。
戦後、大蔵省、専売公社は、気温や湿度に影響なく、効率的な塩の生産方法として、海水をイオン交換膜に通して作るイオン交換塩を開発し、国内の塩の価格と量的な安定を確保する為の体制作りを行った。
このイオン交換塩は、純度99.6%以上の純粋塩化ナトリウム塩である。この塩は食用に適するというよりも、化学工業にうってつけの塩であった。
この政策は戦後の復興が順調に進んでいるなか、国際競争力を付け、国力を強化し、安定した税収入を確保する為の国内政策としては最優先課題であったと考えられる。
即ち、大蔵省が公認した国内8つの製塩業者のみに製塩の許可を与え、それまで東北から九州までの沿岸各地に点在していた入り浜式塩田などを全廃し、より効果的に押し進めたものと考えられる。
塩の専売については、明治38年(1905年)、時の政府は、『食塩は国民生活の根幹の一部をなすものとして、食塩の生産から、販売に至るまで、大蔵省専売局の管理下に置き、1997年4月の専売制の廃止まで、実に90年以上も独占的に塩の生産・管理を行っていた。

 
 
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